『雨滴は続く』を読んだ

西村賢太の未完の遺作。この作品の執筆中に急逝してしまった。


北町貫多が作家になろうとする時代が描かれている。文芸誌に載り、そこから苦難を経て初の単行本化が見えてきて、さらには芥川賞候補の連絡が……というところで未完で終わりを迎える。嗚呼、この先が読みたい。長編だが北町貫多好きとしてはたまらなく濃厚で濃密で面白い内容となっていたので、さあここからどうなる、というところで終わってしまっているのが非常に残念。
作家としての道を歩み始めるところはもちろん、相変わらず女性への興味が尽きず狙っていたおゆう、葛山との結末はどうなるのか、など、たとえその結果がボロボロでも最後まで読み切りたいというものだった。


北町貫多ものでよくある「こう見えて根が~」と自身の獰猛さ、臆病さ、エチケット意識の高さ、小心具合などを表現するフレーズが数ページに一度は出るくらい多く、これを読むと北町貫多ものだなあと思う。過去の作品よりも特に今回は多い気がしたけれど意識的なものなのだろうか、それとも未完のため見直しが入っていないからなのだろうか。


北町貫多の口の悪さ、性欲の滾り具合、暴力性などがこれまでの北町貫多ものよりも非常に多く描かれていて、改めて北町貫多という人間がどういうものかが強く伝わってくる。
そしてこれは北町貫多だからではなく、人間というのはこういうものなのかもしれないと感じる。これは北町貫多という人を通して人間を描き、見せて、伝えているのだと思う。自分だって全ての箍を外せばこのような思考、行動、感情になると思う。そこをそのまま描いている西村賢太はやっぱり稀有な作家だったと思う。過去形で書くのが残念だけど。


まだまだ北町貫多もの読みたかった。慊りない、慊りないよ僕は。