『棺に跨がる』を読んだ

素晴らしい!西村賢太私小説がさらに深化した。いわゆる「秋恵もの」だがマンネリ感はない。
秋恵との日々に亀裂が入り、そして逃げられるまでが生々しく描かれている。そこにあるのは貫太の傲慢さと卑屈さ、臆病さからくる暴力と罵言。秋恵には悪いが、ここまでぶっ飛んでいるとむしろスカッとする。
今作が今までの秋恵ものと違うのは、読後心に吹く醒めきった風。貫太の傍若無人で自分勝手な姿がひたすら描かれているのに、なぜか秋恵の辛さや悲しさが伝わってくる。
秋恵ものをもっと読みたい、読ませてほしいという衝動が止まらなかった。帯の「非道の連作集」という部分はもっと太く目立つようにしてもいいくらいの非道さだった。


棺に跨がる

棺に跨がる