『痴者の食卓』を読んだ

もちろん北町貫多もの。もちろん暴力的。それだけ聞くといつものやつかとマンネリ感を覚えるかもしれないが、そう、マンネリです。でも面白いんです。
帯に「貫多、反省す――。」とあるが、反省なんてしていない。自分が病的に短気なこと、臆病なことをわかっているのに手が、足が止まらない。秋恵に対する罵詈雑言、暴力が止まらない。
普通ならそういった場面の数々に不快感を覚えるのだが、西村賢太作品を読み続けてこの北町貫多のダメ加減がわかっていると痛快に思えてくる。もちろん現実世界で近くにこんな人絶対にいてほしくないが、私小説の世界でならこういう風に無茶苦茶に振る舞っている人がいたっていい。
どの作品もサクサクと北町貫多の傍若無人な振る舞いを楽しむことができるが、それぞれの題名が秀逸。
「人工降雨」「下水に流した感傷」「夢魔去りぬ」「痴者の食卓」「畜生の反省」「微笑崩壊」と、どれも普通の人なら思いつかない題名ばかり。そして題名と内容が非常に強く結びついている。ちなみに「畜生の反省」は反省していない。でも鋭い題名。
夢魔去りぬ」を読むと今後遂に父親について書くのだろうかと思わせる。マンネリなのだが面白い、そんな北町貫多の私小説の世界にさらに広がりが生まれるのか期待。

痴者の食卓

痴者の食卓