『夜更けの川に落葉は流れて』を読んだ

西村賢太最新作。今まで書かれてこなかった20代前半の北町貫多が描かれている。
清々しいほどのクズである。褒め言葉であって、だからこそ西村賢太作品。存分に作風を楽しめる一冊。


「寿司乞食」はその日暮らしの生活を抜け出したい、もう少しマシな仕事がしたい、と築地市場での週払いの仕事を見つけたのにハメ外しの泥酔で……といういつものクズ展開。この短編で一気に北町貫多の世界に入り込める。


そして表題作の「夜更けの川に落葉は流れて」では、西村賢太作品で女性といえば秋恵ものだったところ新しい女性が登場している。20代前半の僅かな間だったがこんな女性が貫多のところにいたのか。
一時はとろけるような関係を築いた二人だったけど、やっぱり貫多の気性で終わりを迎える。自分の別の関心が満たすことができなかったところから無理矢理相手に嫌悪を懐き、最後には罵倒、そして暴力と、ある意味いつもの北町貫多だけど、そこに至る歪んだ感情と爆発力がクズとして素晴らしい。その後の後始末で弱く情けない姿を晒すところも見事。人生の落伍者と自ら認めるけれど、清々しいほどのクズを見せる北町貫多には、読んでいるほうとしてはカタルシスすら感じる。

「青痰麺」は今回の3編の中で一番酷い(西村作品の場合褒め言葉)。結果的に長い年月で3回同じラーメン屋に行くことになるけれど、どれも気まずさと苦々しさと不快がじわりと伝わってくる。ラーメンに青痰を吐くというまさにクソな話だけど、その展開と描写がとにかく酷い(褒め言葉)。


根が小心者、でもプライドが高くそこを侵食されると激昂する、そんな北町貫多を存分に楽しめる作品。最近の作品は少し当たり外れが激しかったけれど、これは間違いなく当たり。


憤怒、そして慊い。


夜更けの川に落葉は流れて

夜更けの川に落葉は流れて