『蝙蝠か燕か』を読んだ

北町貫多ものの短編集。三篇とも中年を迎えた北町貫多の姿が描かれている。
「廻雪出航」以外は暴言はなく、また性への執着に関する描写はどれもない。それだけに、そして作者が急逝した後に刊行されただけに何かとても暗く静かなものを感じる。


表題作は2021年8月までの北町貫多がいる。自分の死について書いている箇所もあり、でも仮定の話で書いており、本当に自分が突然亡くなるだなんて思っていなかったのだと思う。静かな話だが、コロナ禍で滞った自身のやるべきことに対して再度気持ちを震わせている。たとえ創作の私小説だとしても作者の西村賢太も同じ気持ちだったのだと思う。ここからさらに伸びる北町貫多ものが読みたかった。別の同居者がいたということも触れられていたし、そこでの生活も読みたかった。


もう西村賢太の作品が刊行されることはない。寂しい。