『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』を読んだ

去年『アウト・デラックス』の1と2を見て「ん?」と思い、今年新年早々『苦役列車』を読んで「これは!」とハマり二作品を一気に読んだ。
むちゃくちゃだ。気性が荒く、すぐに自分以外のせいにする、自分勝手、入ったお金はすぐ使う、女性に平気で手を出す、女性の両親からもお金を無心する、自分の頼みが聞き入れられないと途端に相手を罵倒する・・・それなのに小心者であり激怒の後はおろおろする。もうむちゃくちゃ。
ここまでむちゃくちゃだとむしろ一度飲んで話を聞いてみたいな、と思うけれど、さらに酒癖が悪いときた。
このむちゃくちゃさが読んでいるとたまらなく面白く異様な魅力を感じる。
滞納した家賃を督促されると逆恨みで殺意を覚えたり、同棲相手の親から借りるお金を必要以上に水増しして同棲相手に頼ませ(同棲相手にも水増ししていることは教えていない)、借りたら親に叱られ泣いている相手への感謝よりも「これでようやく自分のやりたいことが進む」と自分への達成感と満足感のみ感じたりと、もうひどすぎる。
しかも私小説なのでフィクションが混ざっているとはいえ自己の経験によるところが多いというから恐ろしい。15から30代中盤まで一切ブレずにむちゃくちゃだ…
ひどすぎるんだけど、ここまで自己をさらけ出しているから面白い。下手に綺麗なことを言わず、思うがままに感情を出しているところにとてつもない魅力を感じる。ある意味ここまで自分に正直になれたら気持ちいいだろうなと思う。関わってきた人たちは大変だったと思うけど。
むちゃくちゃな生き方・考え方とそれを非常に生々しくかつ面白く書く作風が見事にマッチしていてどっぷりとこの私小説の世界に浸かれる。
苦役列車』でこういう世界やこういう考えの人がこの世にはいるということの静かで狂った叫びに驚いた。それが別の作品を読むことでさらに深く入り込んでしまった。
小説って面白い。

小銭をかぞえる (文春文庫)

小銭をかぞえる (文春文庫)