『きみ去りしのち』を読んだ

静かな作品だった。各章ごとに舞台が変わり、それぞれで特徴的な情景が描かれているが、それでも静かな印象を受けた。
重松さんの作品だから読みやすいのだけれど、難しかった。難しいという表現とは少し違うかもしれないが、ただ読むのではなく、考えながら、進んでもまた戻って再度読むような感じだった。
作中に登場する柳井さんの「寂しさをじょうずに育てていったら優しさになるんだから」という言葉と、岡村さんの「身勝手だけどなあ、もう会えなくなってからも『わたしと出会ってくれて、ありがとう』って言いたい相手がいれば、たとえ一人になっても、ひとりぼっちじゃないんだと思うんだよなあ」という言葉に心を掴まれしばらくその行から先を読めなかった。
誰も責めることができない、自分を責めても仕方がないことなのに自分を責めることしかできないこと。どこまでいっても許すことができないこと。そんな答えのない、でも答えを求めすがりつくようなことを静かに、でも確かに書いている。
思い出にすがることや忘れないことが正しいことなのだろうか。「時間が解決してくれる」の「時間」とは、ただ過ごしていれば訪れる「時間」なのか。なんて難しい、ともすれば消化不良でふらふらしたまま終わるようなことについて静かに真正面から書いている。
かあちゃん』あたりから重松さんの作品が新しいところに行き始めたな、と感じたけれど、この作品でさらに強く感じた。これからの作品もぜひ読んでみたい。

きみ去りしのち

きみ去りしのち