『永遠を旅する者』を読んだ

永遠の生を生きる、死ねない男。舞台は日本ではなく戦場。ゲーム作品のシナリオだということは知っていたが、重松作品らしくない設定だと最初は思った。
しかし中身は重松そのもの。設定が現実離れしていようと、そこに出てくる者たちは皆、現実世界と同じ感触がある。
一千年生きてきた、老いることも死ぬこともない男の、普通の人間では考えられないほど長い時間の間にあった話が31の短編になっている。どの話も一千年の内のいつかの話でつながりはない。永遠に生きる、しかも傭兵として生きていくということは、多くの死を見ることで、悲しい話、寂しい話がほとんど。しかしその中にも希望や未来のある話があるので絶望的な気持ちにはならない。
一千年生きる男の話などありえないと思っているのにカイムの孤独、寂しさは一つ一つの話から伝わってくる。最初に手に取ったときこれまた重松作品らしくないなと思った、帯に書いてある「その寂しさ―あんたにわかるかい?」という言葉も読了後はぴったりだと感じた。
作品中には戦場が多く出てくるが、その中で生きよう、生きたかったと思う人物たちの気持ちから、重松氏の作品『最後の言葉』が思い出された。
「なぜ人は人を殺すのか」「信じることが本当にできるのか」「人はなんのために生まれてきたのか」など、答えるのに難しい問いが多く出てくる。カイムやカイムと話す人物が語る答えのような考えもあるば、明確に示されないまま終わるものもある。それはきっと自分自身で考えるものだと思いながら読んだ。
ただ寂しさや悲しみに満ち溢れているのではなく、それらの中から強い生への思いが見えた。必ず未来が見える、いい意味でいつもの重松作品だった。
31の短編のうち「嘘つきの少女」「忘れないでね」「語り部サミィ」が特に良かった。

永遠を旅する者 ロストオデッセイ 千年の夢

永遠を旅する者 ロストオデッセイ 千年の夢