『きみの友だち』を読んだ

重松清作品が好きだからこそ変に身構えてしまう。好きだから、今まで心を揺らされまくったから「面白いのか?」「わざとらしさはないのか?」「クサくないのか?」と思って読み始める。
やられた。またやられた。
どうしてこんなに人の気持ちをストレートに書けるのだろう。10の話に出てくる人物はみな性格、考え方が違う。それなのに全ての人物の心の中が嘘偽りなく書かれている。
「本当はそんなこと言うつもりじゃないだろ」「ああやっぱりそうなっちゃうのか」と、読んでいる私は一人なのに全ての登場人物の気持ちがわかる。登場人物の中の誰かに必ず自分を重ねてしまうと思う。登場人物はいい人ばかりではない。人間の心の汚い部分、わかっているけどどうしようもない気持ちを鋭く書いている。
全ての話を合わせて「きみの友だち」になっている。そして1つ1つの話も「きみの友だち」になっている。
「あいあい傘」「ねじれの位置」・・・どの題名もこれ以上ないくらいぴったりだった。1つの話を読むたびに題名の素晴らしさに気付く。
「花いちもんめ」―――その前の話まではなんともなかったのに、読み始めてすぐに涙が込み上げてきた。そんなはずではなかったのに。涙が止まらなかった。言葉の一つ一つが心を打った。この本のピークだった。
最後の「きみの友だち」で最初から「花いちもんめ」までの気持ちをクールダウン。それでも最後の1ページでまた涙が。読み終わって本を閉じ、しばらく余韻に浸っていた。
「感動させてやろう」という気持ちは文の中からは感じられない。今作も真っ正面から「人」を「気持ち」を「関係」を書いていた。その真っ直ぐさにまたも心打たれた。
全ての話がうまくいっているわけではない。むしろほとんどの話がわずかな進みだ。だけどそれが真実だと思う。目をそらさず無理矢理演出しようともせず、真っ直ぐに向き合ったからだと思う。小説らしいけど小説らしくない。
映像では絶対に表現できない、伝えることのできないものがあった。文字の力の強さを感じた。だから本を読むのをやめられない。
「いちばん大切なもの」は確かにこの本の中にある。たくさんの人に読んでもらいたい。

きみの友だち

きみの友だち