『半パン・デイズ』を読んだ

「人」がよく描かれている。重松作品に共通することだけど、非常に「人」がよく描かれている。
主人公のヒロシだけでなく、登場する全ての人が本当に現実の世界にいるかのように命を持って書かれている。この作りこみが重松作品だと思う。ヨッさん、上田、チンコばばあ、シュンペイさん、タッちん、美奈子・・・全九章に出る全ての人に感情移入できる。
どの人物も魅力的である。ただし、善人ばかりというわけではない。むしろ一癖も二癖もある、個性が強いというかきついというか、そんな人物ばかりだ。でも、読み進めていくとそんな彼らが愛おしくなる。みんなに見せる自分と本当の自分が書かれていて、読むほうの心にチクッとくる。
自分でもわかっているのに道を外れていくシュンペイさんや、学年とともに周りの対応が変わっていくタッちんの話は涙腺がゆるんでしまった。それでも一番好きな話は第八章「アマリリス」の美奈子だった。終盤ヒロシが美奈子に言う「みんなのう、おまえに親切しよう思うたんは、同情したから違うど。おまえと仲良うしたいけえ、親切にしよう思うたんじゃ。なしてそれがわからんのか、のう」がとても印象に残っている。そうなんだ、うまく言えなかったけど、読者も言葉にできなくてでも伝えたかったことはこれなんだ、と強く感じた。
久しぶりに小学校の頃の自分を思い出した。「ぼくたちみんなの自叙伝」と評されているのはあながち誇張表現ではないな、と思った。自分の小学校時代が、通学路が、教室が、友達が思い出される。

半パン・デイズ (講談社文庫)

半パン・デイズ (講談社文庫)