桜庭欠場

残念。入場だけで満足させられるレスラーが本当に少なくなった今、大晦日にはうってつけの男だった。格闘技事情に詳しくなくて、たまたま見ただけの人でも、日本人選手ということで感情移入がしやすく、入場の面白さで試合はどうなんだろうと自然にわくわくさせる。
今回シウバとの試合が流れたことで終わりではない。多くの人がシウバ戦が決まった時に「またか」と思ったはずだ。3度やって3連敗した相手との4度目。シウバの立場からしたらやりたくないだろう。勝つのが当たり前、負けたら一気に失う。ハイリスクローリターンだ。
しかし桜庭はそれをしてもいいだけの選手である。PRIDE初期から勝利を重ね、グレイシー連破という快挙を成し遂げ、日本人は弱い、勝てないと言われた批判をはねのけた。
ホイスとの伝説の90分の死闘、ホイス陣営から白いタオルが投げられた瞬間、全ての観客が歓喜し涙した。それよりも感動したのは「情熱大陸」でその試合の裏側を見た時だった。
試合が終わり全身をアイシングされぐったりしている桜庭。顔にはタオルがかけられている。それでも次の試合が近づくとむくっと立ち上がり花道にむかう。トーナメント制だから勝てば次が来る。ボロボロの体で花道にむかう時の桜庭の後ろ姿が本当にかっこよかった。静かに葉加瀬太郎の「Etupirka」が流れる。泣いた。普段はひょうきんな男の真の姿を見た。東京オリンピックで、大会前に膝の靭帯を断裂しても「男には耐えねばならぬ時がある」と言って怪我を隠し続けヘーシンクに挑んだ神永昭夫とダブった。その後のボブチャンチン戦は負けた。しかし諦めず判定まで戦い続けた。負けても桜庭の評価は変わらなかった。
過去は過去、という考えもあるが、桜庭の歴史を振り返るともう一度はあっていい。総合の世界はすぐに忘れられてしまう。桜庭に勝った「北の最終兵器」でさえ今は「ロシアンラストエンペラー」に「ロシア最後」の称号を奪われている。歴史は大切にされるべきだ。そして桜庭は時代に取り残されていない。
シウバと戦い、そして本当に勝ちたかっただろう。でも今の状態なら勝てない。怪我の蓄積や年齢のことで残り時間は少ないと言われているが、今こそ「男には耐えねばならぬ時がある」だと思う。
出る杭は打たれ、少しでも弱みを見せれば叩かれる、過剰とも言えるくらいの批判社会になりつつあるからこそ、誉めるべき、称えるべきことを大切にして最大限に評価したい。
桜庭、お前男の中の男だ。