東京藝術大学の人たちを描いたノンフィクション。
帯や紹介文には変な人のエピソードばかり書いているので全体的にそういう構成かと思ったけど、実際には各学科・専攻の紹介や真面目(?)なインタビューも入っており、全体的には破茶目茶すぎずバランスの取れた内容になっている。学科・専攻については、藝大を知らない私のような人でもすぐにイメージできる画家やピアニストだけでなく、演奏会場の舞台や配置構成といったある意味裏方のことを学べる専攻まであり、本当に芸術全般を学べる場所なんだなと感じた。
それでも各エピソードは強烈なものばかり。入試の実技で口笛を披露して合格した人、ホストから転身した人、下着姿で正義のヒロインとして構内を歩く人……あれ、ここ国立大学だよね?と一瞬思ってしまう。
そんなかなり強烈な学生たちが載っているが、共通するのはみんな芸術に対して真面目で真剣なこと。一見理解ができない行動や作品でも、学生は皆自分の思う芸術を一生懸命表現しようとしたり、誰かを感動させようとしたり、自分の好きなジャンルをもっと世間に知ってもらおうと真剣に取り組んでいる。作品内では音楽と美術の非常に多くの学科を紹介しているけど、古来の邦楽からクラシック、伝統工芸から洋風建築と、本当に幅広い分野に幅広い天才たちが一生懸命になっている。
そこまで真剣な藝大生ならみんな好きで入ったのかと思いきや、家が音楽一家で家族の期待で動かされ、義理で入って卒業後はスパッと足を洗う人もいるというから驚く。藝大に入るだけですごいのに。
そんな藝大生、卒業後は半数が未定か行方不明というのがショック。でもよく考えれば芸術という会社という世界からは遠いものに対し、自分の好きを追求するとなかなか道は開けないというのは理解できる気がする。プロの芸術家、演奏家というのは本当に世界が狭いというのも非常にシビアに書かれている。将来について不安がある人もいれば、この道をどこまでも突き進んでみたいという人もいる。
この本を読んで、藝大の学祭に行ってみたいとちょっと思った。
- 作者: 二宮敦人
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/09/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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