『みんなのうた』を読んだ

久しぶりに泣いてしまった。
三浪しても東大への夢叶わず実家に戻ったレイコさん中心に描かれているが、個人的にはこれは田舎にい続け、家を守るキミ婆の物語だと思った。田舎に生きる人、変わらない毎日を誠実に生きる人の姿が熱く胸を打った。
「いま必要なことをしてあげる、それが親切の基本。わかった?」と言って余計なことを考えずすぐに行動するイネちゃんに勇気づけられ、そして服部のおじいさんとおばあさんの生活に悲しいだけではない涙が流れた第二話。
そして第五話のサブちゃんの話が一番よかった。一番泣いた。
「ほいでも、忘れんといてくれ。これからレイコがどげんエラジンさんになっても……人間の情をなくすような者は、ほんまのエラジンさんとは違う」
「金の話をするときは、恥ずかしい顔をせえ。自分の都合を言うときは、つらそうな顔になれ。身内を……身内を捨てるときは……涙のひとつも流せえ……ええの、レイコ……」
というキミ婆の言葉に涙が止まらず、頷きながら文字を追っていた。サブちゃん、キミ婆…こういう人が本当のエラジンさんなんだ。
最終話の最後のシーンはまさに「みんなのうた」。特別な光景ではないが、そこに感情を震わせる姿がある。こればかりは読んだ人にしかわからない。みんなが、ふるさとが歌っている。泣きながら読み終えた。
やっぱり人間は情なんだ。
実家がある人、実家を思う人、離れた生活で忙しく過ごす中ついつい実家を忘れてしまう人……全ての人に読んでほしいと思った一冊だった。傑作。

みんなのうた (角川文庫)

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