『見張り塔からずっと』を読んだ

短編が3つ。3組の家族、特に夫婦の話。
内容はかなりえぐい。「カラス」「扉を開けて」「陽だまりの猫」の三編全体のタイトルに『見張り塔からずっと」がぴったり。目をそらしたくなるような人の汚い部分が鋭く書かれている。「あ、こんなこと考えたことある」と思い当たる部分が結構あった。読んでいる者が感じるそういう気持ちも見張り塔からじっと見られているような気がした。
この前読んだ『四十回のまばたき』から2年後、95年に発表された作品。『四十回のまばたき』に比べ格段にいい。一つ一つの話はしっかりとしているし、全体のテーマもぶれていない。そして描写がとても鋭くなっている。私の好きな重松清だと感じた。
「カラス」は、私と妻が最初は「やめろよ」から、「わかっている、だけど」という気持ちになり、そして「だってそうだろ」とどんどん汚れた心になっていく過程がリアルすぎてぞっとした。普通の大人ならそんな子供みたいないじめをしないはずなのにニュータウン自治会といった環境によってまるで正しいかのようになっていく。そんな環境の犠牲者になった榎田さんが最後に会ったときに話した会話はさらにぞっとさせた。
「扉を開けて」は段々と精神がぐらつき壊れていく様が恐ろしかった。そうなったことはないけど、疑似体験したかのような話だった。夫婦は悪くない、近所の子供も悪くない、それはわかっているけどお互いがわかりあうことはできないから壊れていく。
「陽だまりの猫」はずっと「みどりさん」のまま旦那と姑から辛い目にあわされたまま話が進んでいくと思ったら「あたし」になり一線を超えようとしたので意外だった。でも超えられず、姑がいなくなっても「みどりさん」のいる空間は変わらず抜け出すこともできないのが悲しかった。でも現実にこういう人はいると思う。
鋭い視点からの描写が読後も残る。

見張り塔からずっと (新潮文庫)

見張り塔からずっと (新潮文庫)