『コンビニ人間』を読んだ

芥川賞受賞作。タイトルの「コンビニ」というのが身近に感じられる言葉なのでタイトル買いをした。
最近読んだことのない感じの内容と描写で、非常に面白く満足した!


コンビニで働き始めた時を「生まれた」と表現する主人公。コンビニ店員として「生まれる」前のことも書かれているけど、そこには「普通」がわからない少女がいる。自分では当然のことと思ってやっていることが「普通」ではなく、周囲の人や家族を困らせてしまう。「どうすれば治るのか」と、本人は何にも罹っていないので治る必要がないのに家族は不安を抱える。さすがに困らせることはしたくないので、自ら動くことをやめるようにしたのだが、それが無気力や自主性のない子と思われることはなく、周囲がほっとなることからますます主人公は自分で何かをしようとしなくなる。


この「生まれる」前の部分の話はやや暗い。困惑を覚えつつも、でも「普通」ってなんだろう、この主人公のような考えになることが自分でも時々あるなと考え、不気味と冷静の間のような不思議な気持ちになって読んでしまう。
その後の「生まれた」後の話、コンビニ店員での日常の話は一転、明るさを含んでいる。ただしその明るさは主人公が子どもの頃に学んだ、自ら動かず周りに合わせることを見せているので、他のコンビニ店員と明るく雑談しているようでもどこか作られたものを感じる。本人もそれに気付いてじゃあどうしようと思っているあたりの描写が、同じように生きている人には共感できるように感じる。


周りに染まり、コンビニという箱の中で各種の仕事をすることで自分の生きがいを見つける主人公。大学一年から18年間コンビニバイトを続け、就職も結婚もしない主人公。それについて周りからなぜかと聞かれるが、なぜと疑問を抱く相手の気持ちがわからない主人公。不気味さがどこかありつつも、疑問を抱くのが当然だという周りの人に「なんでそれが『常識』だと思うのだろう」と読んでいる側が主人公に共感してしまう部分があり、この不気味さと共感が交互に来るのが本当に読んでいて不思議な感覚になる。


中盤以降大きく変わる白羽との関わりと、それに関する「ある変わった出来事」で急に一緒に働いている店員たちが店員ではなくなっていく展開は前半までの「普通でない」と不気味がより深く合わさっていって、読んでいて心配なんだか避けたいんだか、もっと強くいけと応援したいんだかわからないほどいろんな感情が浮かんでくる。そしてその中で思わず笑えるような発言ややり取りがあり、読み進めるにつれてこの『コンビニ人間』というのがおかしくてたまらなくなってくる。


全体として「面白い」という一言でまとめられるこの作品。ただしその「面白い」を詳細に分けていくといろいろな感情が湧いてくる。コンビニという狭い空間と限られた人間関係でここまで面白いものが書けるというのに驚いたし、素晴らしい。


コンビニ人間

コンビニ人間