最近読んだ本

ソニーの法則2006』
1998年の『ソニーの法則』に「まえがき」と「甦る」の章を足したもの。ソニーショックに至る原因も厳しく書かれている。
基本的に昔の人のインタビューが載っているので、今現在の状況とは異なる。
この本を読んでわかるのは、いかに井深さんという人がすごい人かということ。誰もが具体的なエピソードを挙げて尊敬の心を示している。
ソニーショックがあったりネットの世界ではソニータイマーなどと言われているけど、60、70年代に一心不乱に商品を開発した人の話を見ると、当時は品質はともかく世界初のものを世に出すということに心血を注いでいたことがわかる。その情熱は非常によく伝わってくる。
2006年の現在では間違いなく品質は問われる。叩かれるほどの知名度を持っているということはあるが、都市伝説より強烈なネット伝説の中でソニータイマーなど言われているようでは厳しいと思う。エレクトロニクス復活を示しつつあるが、まだまだこれからだと思う。
叩かれるうちが華。
この本の話からちょっと離れるけど、やはりどんな企業、会社でも消費者に近くなければいけないと思う。たとえBtoBであろうとも。素晴らしい商品を売り出すのは企業の使命だけど、もしも過ちを犯した場合の姿勢もしっかりと見せてほしい。
極端な話、儲かっている企業はマスコミをも封じ込めることができる。最近そういう関係で不思議に思うのは、トヨタのリコール書類送検問題、複数企業の偽装請負問題。どちらも一部マスコミが大きく報じるものの、テレビなどではほとんで報じず次の報道が来ないままぼやけて消えていく。これだけ重要だと感じる問題がなんかうやむやにされていく。なんか企業のパワーを感じてしまう。
話はそれたけど、とにかく日本の企業は技術を研ぎ澄ませ、品質などを含めお客に近い視点で真剣に取り組んでほしい。

ソニーの法則2006 (小学館文庫)

ソニーの法則2006 (小学館文庫)


姑獲鳥の夏
妖怪は大好きだけど、なぜか京極夏彦には手が出なかった。これは自分でも不思議。去年映画化された時に映画と一緒に読もうかなと思ったけど映画版が不評だったので止めてしまった。見ないのに判断するのは一番悪いことだと考えているのに。
水木しげる御大を慕っているものとしてやっぱり読もうと思い、夏という季節をチョイスして読んだ。
素晴らしい!これがデビュー作?初めの鳥山石燕の姑獲鳥の絵の挿入から話の世界に引き込まれる。序盤の長ったらしい講釈もラストで効いて来る。中盤以降は読むのが止められず、一気に最後まで読んでしまった。
関口の視点であるというのがミソであり、ちょっとずるいなあと思ってしまったけど、それを超越する作品の作り。途中語られた一見冗長に感じる部分が後半に意味を持ってくる構成、終盤のこれで謎が解けたな、と思った後のさらなる謎解きの衝撃、もう完全に参りました。構成も真相も非常に論理的。
題名や最初の導入部は確かに妖怪ものを思わせるけど、京極堂が言うとおり「この世には不思議なことなど何もない」。
やられた。もっと早くに読めばよかった。

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)


『DIVE!!〈上〉』
『DIVE!!〈上〉』
イチオシ!太字に、でっか字にしたいくらいイチオシ!「爽やか!」と叫びたい。押し付けがましいわけではない、まじりっけのない爽やかさがあった。
上下巻にわかれているが、長さは感じない。
最初読み始めると知季が主人公なのかと思うけど、読み進めるうちにそれは間違いだと気づく。出てくる人物全てが真の意味で「登場」人物であり主人公。陵、レイジ、知季の両親、弟、元カノ、要一とその両親、飛沫、飛沫の母親、祖父、父、恋人、文さん、コーチの夏陽子、幸也、ピンキー山田などのライバル・・・書ききれないけどとにかく全ての出てくる人物がよく描かれている。
主人公はいない、でも面白い。どの人物もしっかりと人物像が描かれていて、魅力的。読んでいる人によって感情移入してしまう人物が違うと思う。私は最初知季だったけど、次第に陵、レイジにうつっていった。頂点ではないけどそれぞれの思いの中で100%頑張る姿勢にシビれた。
登場人物だけではなくストーリーもとても魅力的で、飛び込みなんて無知の私でも楽しめた。とても楽しめた。飛び込み知らない人が読んでも絶対にハマると思うこの作品。人物もストーリーも素敵だからこそこの爽快感があるのだと思う。
飛び込みという競技はこの小説を読むまでオリンピックですらほとんど見なかった。だけどこの小説を読むと1.4秒の世界に挑む者達の世界にひきこまれる。過酷さと、それを超えた後に待つ快感と挫折が伝わってくる。絵は一つもない、文字だけだけどそれが伝わってくる。
森絵都恐るべし!
読んでよかった!この夏イチオシ!

DIVE!! 上 (角川文庫)

DIVE!! 上 (角川文庫)

DIVE!! 下 (角川文庫)

DIVE!! 下 (角川文庫)


『失はれる物語』
八つの話全てが暗い、世を絶望している者が主人公の話。だから誰もが世の中に期待などしていない。
だけど力強い。最後は必ず前向きに、希望のある終わり方になっている。だから最初は暗くとも読後感はいい。
特に「傷」がいい。この話を読んで、改めて世の中捨てたもんじゃないと思った。とてもいい話。信じてくれない、裏切られる、受けた傷は誰かに投げてしまえばそれでいい、そんな形もやむを得ないのではと途中思ったけど、あの結末で、やっぱり「救いはある」と思った。人生は投げ出すものではない。
絶望している人ほど救われると思う本。「Calling You」「しあわせは子猫のかたち」も良かった。

失はれる物語 (角川文庫)

失はれる物語 (角川文庫)


『かっぽん屋』
う〜ん、よくわかる。「かっぽん」関係の話はよくわかる。確かに中学・高校の頃はそんな話がよくあった。都市伝説ならぬ地方学区伝説。「誰と誰がヤッた」「あいつはOKらしいぜ」「○○の××××は天井まで飛ぶらしいぜ」とかおサルさんたちの性に関する噂は、ネットのない当時でも今のネットの速さ以上に速くかけめぐっていた。あと必ずあるのが「一日何回××××した話」。う〜ん、おサルさん。
でもそういう話題はどこでもあったと思うし、それが人の皮を被った(皮も被るわ!)おサルさんの思春期学生像だと思う。だからかっぽん関係の話はたまらなく共感できる。あああの頃をもう一度やってみたい。
SIDEAとSIDEBにわかれているけど、SIDEAはかっぽん関係以外にも「ウサギの日々」「五月の聖バレンタイン」と今の重松清らしい感じがあり、SIDEBはゴーストライターやノベライターの感じがある。それでも重松清重松清。温かさがある。
2本のインタビューも貴重。重松清が非常に現実に目を向けていて、自分を含め世のことに厳しく強い自我を持っていることがわかる。そんな人が書く作品に私は思い悩むし泣かされる。

かっぽん屋 (角川文庫)

かっぽん屋 (角川文庫)


『重力ピエロ』
正直微妙。「溢れくる未知の感動、小説の奇跡が今ここに。」と本の裏には書いてあったけどそんな感じは全くといっていいほどなかった。放火の部分の真相は読んでいる序盤で読めてしまったし、兄弟の会話、父の話、その裏にある真実も大体予想していたとおりだった。
放火の真相が読めてしまった時点で全てがわかってしまった感じがして、本の裏のような印象は受けなかった。

重力ピエロ (新潮文庫)

重力ピエロ (新潮文庫)


『ビフォア・ラン』
重松清のデビュー作。重松清は大好きだけどデビュー作は読んだことがなかった。
さて、ドキドキしながら読んでみると、やっぱりデビュー作だけあってブレている感じを受けた。まとまりがあまりなくていろいろなところに浮かんでしまっている感じがするし、まゆみや紀子の深い気持ちが伝わってこなくて読んでいるとただ苛立ちを感じる。全体的に何が言いたいのかちょっとわかりづらい。
ただ、これが重松清の出発地点。そう思って読むと今に至る代表作、私の好きな作品についての輝きはこの作品の中にも確かにある。
前半の優を含めた下品でガサツな男たちの高校生活は最高に面白い。本当に高校生がこれを書いたんじゃないかと思うほど。でも高校生の頃の自分がこんなこと思っていたりしていたよなあと思うのは高校を卒業してからなんだよなあ。
結局こういうかっこ悪い、しょっぱい青春が大切なんだと思う。だけど、だから、今、素晴らしいんだと思う。スカした(死語)、かっこつけた、いい思いばかりの日々よりはこっちのほうがいい。負け惜しみじゃなく。

ビフォア・ラン (幻冬舎文庫)

ビフォア・ラン (幻冬舎文庫)