原付珍道中

 原付が帰ってきたので、今回のことを思い出して書こうかと思う。
 約1ヶ月前、原付で実家に帰ろうと思い行動した。事前に立てた計画では「国道457号線→47号線→108号線→13号線」というルート。旅好きな友達からのアドバイスもあり、平日交通量が少なく、原付でも安全に行け、方向音痴な私でも迷わない道にした。
 計画では午前4時に出発して昼頃には到着しようと思っていたが、起きてみると8時すぎ。大寝坊。早くも計画に修正を加えざるをえなくなる。結局午後12時半出発。大体7時間くらいの旅路になると計算していたので、今から出発すればちょっと暗くなったころには着くだろうと思っていた。近くのコンビニで水分補給用のお茶を買い、予習通りの道を走る。走り始めて30分くらいたって気付いたが、全然進まない。50000分の1の地図をいざ実際に走ると、日本の広さに気付く。「狭いニッポンそんなに急いでどこに行く」という言葉があったが、ニッポンは全然狭くないぞ。原付のハンドル下にある空間入れてある地図をちょくちょく見たが、1ページも進んでいない。7時間かかるとは思っていたが、たしかに長い旅になるなと思った。しかし大変だとは思わず、むしろ7時間も晴れた見知らぬ道を走れることが嬉しかった。方向音痴で普段は見知らぬ道に入ると怖くて焦るのだが、今回は国道なら迷わないという気持ちと冒険心のためか怖いとは感じなかった。といっても50000分の1なので、自分が求めているよりは詳しくはない。457号線に入ってすぐ細かい道があって困ったが、そこは自分の勘で行った。方向音痴の勘がそう当たるとは思わず、多少迷いながら進むんだろうなと思ったが、そんなことはなく全部当たっていた。基本的に国道は広く、所々に青看板があるので軌道に乗るととても気持ちよく走れた。交通量は少なく、青空の広がる広い道を小さな原付でブーンと走るのは最高に気持ちがよかった。
 457号線を走っている時にちょっとしたミス。田舎道を走っていたらいつの間にか予定にはない4号線を横切った。「4号線には合流すらしないはずなのになぜ?」と思ったが、予習の段階で間違ったのだと思いそのまま十字路を4号線を一瞬通る形で真っ直ぐ進んだ。そのまま真っ直ぐ行くと段々と道は悪くなり、砂利混じりになってきた。さすがにこれは国道ではないのではと疑い始めた時大きな看板が目に入った。
            「この先直進富谷カントリークラブ」
やっちまった!道を間違えたばかりか誤ってゴルフ場に行くところだった。ホール回りに旅に出たのではない。あわててその場で止まり地図を見ると、左折すべきところをそのまま真っ直ぐ行って4号線のほうまで行っていた。「国道はひたすら直進すればよい」という考えは基本的にあっていたが、ここは違った。今来た道を戻り、457号線に復帰した。今回の珍道中で道間違いでは唯一のミスだった。この時は後でこれ以上のトラブルが起こるとは夢にも思っていなかった・・・
 457号線はそこさえ抜かせば本当にひたすら直進でよかった。途中途中に青看板があり、それを見ることで安心しまた手に力を入れることができた。ひたすら直進だが、周りの風景は刻一刻と変わり、飽きることはなかった。出発した時もそうだった。ちょっと家から離れるだけでこんなに自然いっぱいのところになるなんてと驚いた。のどかな田園風景が続き、親父の実家、それに高校に向かう道を思い出した。どこまでも田んぼが続き、稲が揺れている。遠くに見える山は活力が漲っていた。暑い日だったが、田んぼの周りを走っている時は風が冷たく心地よかった。そういう風景を見て冷たい風を浴びると、懐かしい昔の記憶が蘇ってきた。親父の実家で田んぼを歩いてはまって足が抜けなくなったこと、夏のくそ暑い日の下校時にしたジュースじゃんけんなどどんどん溢れてきた。「ああ、本当はこういうものを求めているんだろうな」と思った。
 457号線から47号線に入る。予習の時はちゃんと合流できるだろうかと思っていたが、青看板がしっかりと案内してくれた。原付珍道中の間助かったことは、右折がほとんどなく原付特有の二段階右折をしなくてすんだことだ。これだけでかなりスムーズに進める。47号線に入るといよいよ周りに店が少なくなる。「この先6kmセブンイレブン」という街中では見ることのできない看板にも出会った。ここらへんは鳴子の温泉郷で、温泉関係の看板が多くあった。それらを見ながら「温泉入りてぇな〜」と思ったが、ここでゆっくりしてはいよいよ夜中に到着することになるので泣く泣く諦めた。車、せめて中型バイクがあれば・・・とちらっと考えたが愛車の上でそんなことを考えてはいかんと思い、エンジンを1回休憩させるためにその6km先のセブンイレブンに向かった。セブンイレブンに着き、原付にしては長距離走ったので、エンジンをかけたまま地図でその先の道を確認する。地図には道だけでなく様々な店が載っているが、コンビニはこの先しばらくなかったのでここで体のエネルギー補給をすることにした。エンジンを止め店内に入り、おにぎり2個と缶コーヒーを買い、店の前で飲食した。この時2時半すぎ。2時間以上座りっぱなしだったので、少しおケツと腰が痛くその場でストレッチや伸びをして体をほぐした。
 体とエンジンの休憩が終わりまた出発。47号線から108号線に入る。休憩中に地図でガソリンスタンドを確認していたので、108号線入ってすぐのガソリンスタンドを目指す。ガソリンは満タンで出発したが、108号線に入ってからはコンビニ同様13号線近くまでガソリンスタンドがないので、念のため給油することにした。108号線に入ってから15分ほど走ると目的のエネオスが見えた。いざエネオスに入ると街中のスタンドとは違いかなり小さかった、というか車1台分の給油スペースしかなかった。エンジンを止め給油口を開けて店員を待っていたが来ない。「あれ?ここセルフ?」と思ってスタンドを見たがセルフのようではない。おかしいなと思い店員さんがいるであろう店内を見たが誰もいない。しょうがないからスタンドの周りを歩いて店員さんを探していると、向かいの田んぼにいたおじさんから「さっき灯油配達に出でったや〜」と言われた。「いつ頃帰ってきますか〜?」と聞くと「いや〜今出でったばっかりだからいつがはわがんねなぁ」と言われたので、地図を出しもう少し先のシェルを目指すことにした。ここを逃すともうさすがにないぞと思い少しドキドキして向かったが、シェルでは灯油を配達しには行っておらず、しっかり給油してくれた。
 そこからはひたすら山道が続いた。坂もきつくなり、周りは山だらけ。天気は良好でテンションは上がる。ほとんど車も通らず「今何時?そうねだいたいね〜」と大声でサザンを歌い楽しんでいた。鬼首に入るとトンネルを何本も通った。一番長かった鬼首トンネルでは、原付が走るのが申し訳ないくらいだった。後ろから車がトンネルに入ると、ゴー!という凄い音がして、初めはびびって首をすくめてしまった。近づいてくるとさらに大きな音になり、追い越された瞬間に引っ張られるような感触とともに一陣の風が吹き抜けた。これは普段味わえないことだと思い、初めは怖かったのが段々と面白くなってきた。トンネルを走っている間に秋田に入り、長い長いトンネルを抜けた時は、トンネル内のひやっとした空気とはまた違う冷たい空気に包まれた。だいぶ高いところに来ているようで、ガードレールの先の風景は谷になっていた。そんな山道を進んでいると秋の宮温泉郷が見えてきた。鳴子温泉郷と同じくそこかしこに温泉関係の看板があった。明らかに民家と思われるようなところにも「入湯料400円」などと書いており、本当に民家にも温泉が出ていて入れさせてくれるのか、それとも普通の風呂に入れてくれるのかわからなかった。いつか車買って暇ができたら鳴子と一緒にここらの温泉巡りしたいなぁと思った。
 温泉郷を越えさらに108号線を走るとついに最後の国道である13号線に入った。親戚の家がある「湯沢」という文字を見て秋田に来たことを実感した。秋田に入り、時間も5時近かったので、体とエンジンを休憩させようと思い近くにあったローソンに入った。缶コーヒーを飲み、エンジンの休憩も終わり「いよいよラスト2時間だな」と思い出発。やや街中に入ったのか交通量も増えてきた。信号の数も増え、ローソンを出発してすぐに赤信号にひっかかり止まった。

 そこで最大の事件が起こった。

 止まってすぐガリッ!ガリッ!ガリガリッ!という異音が突然鳴り出した。歩道の男の子がぎょっとした様子でこちらを見る。何が起きたかわからず、とりあえず歩道に寄せて原付の様子を見る。外から見た感じは特に異常はない。もしかしたらオイル不足のランプを見逃したかもしれないと思い予め買っておいたオイルを入れるが状態は変わらない。あまりにも危険な音なのでその場でエンジンを止め原付を押しながら歩道を歩く。突然のトラブルでどうしたらいいかわからず、バイク屋で見てもらおうとしばらく歩いたが、そう都合よくバイク屋があるはずがない。車関係の店なら状態がわかるかもしれないと思いトヨペットの前に原付を止め店員に事情を話す。「いや〜うちら車なんでちょっとバイク関係のことはなんとも言えねすな〜」と言われる。原付がどうなっているか不安でしょうがなかったが、秋田弁混じりで話されるとその不安が少し消される。秋田弁には独特の温かさ・優しさがある、危機的状況の中それを再確認した。店員が親切な方で、このあたりにあるバイク屋に電話をしてくれたが、店を閉めて出張はできなかったり出かけていたりで直接見てもらうことはできなかった。店員がバイク屋から聞いた話だと、エンジンは大丈夫そうだから低速なら秋田までなんとかもつかもしれないということだった。もう前に進むしかないので、店員さんにお礼を言い先に進んだ。
 それにしても異常な音がする。速度に比例して音も大きくなる。警察に見つかったらまず間違いなく整備不良で捕まっていただろう。族車のような音を出しながら20km/h巡航を続けた。十文字を過ぎ横手に入った時にとどめを刺された。アクセルを開いてももうスピードが出ない。歩道に寄せエンジンを止めまた歩き、今度はホンダクリオに入り先ほどと同じように事情を説明する。仙台から来たと話すとさすがに驚かれたが、ここの店員さんも親切に秋田弁で話を聞いてくれ、近くのバイク屋に電話してもらった。今度は1件ヒットして、すぐに来てくれた。早速原付を見てもらうと「あ〜こりゃダメだね〜完全にベルトイッちゃってるね〜」と診断された。「とりあえず秋田まで帰れればいいので応急処置的な感じでもなんとかなりませんかねぇ?」と頼むが「いやこれは今すぐどうこうじゃなくてバラして部品注文して修理しないといけないから無理だね」と言われ諦めた。
 この瞬間原付の旅が終わった。
 「この近くに駅ありますか?」と聞くと「あ〜すぐ近くだよ、そこまで送ってくよ」と言われ、バイク屋さんの軽トラに愛車を乗せ、ホンダクリオの店員にお礼を言い助手席に乗り込んだ。「よく仙台から来ようと思ったね〜」「俺も学生時代原付で福島まで行ったよ」というような話を聞きながら横手駅まで乗せてもらった。時間は7時を過ぎていたがまだ秋田駅行きの電車はあった。駅の中で連絡先を教え、相手からは名刺をもらい、お礼を言いバイクを預けた。
 時間が来て電車に乗った。結局原付で家まで行けなかったが、横手までいろいろなものを見て感じて楽しめたし、原付が故障してからは秋田の人の温かさに触れることができた。「やってみなければわからない」いつもそう思って行動しているので後悔はしていない。仕送り減とバイト代が手元に入らないのは痛いが。
 大学生活最後の夏に貴重な体験ができた。そんな風に今日1日のことを思い出しながら電車に揺られていたが、ふと現実に戻ると電車が止まっている。どうしたんだろうと思っていると車内アナウンスが流れ現在の状況を説明した。どうやら今乗っている電車の逆側の電車がカモシカをはねたらしく、その影響で止まっているらしい。結局30分その場に止まっていた。故障しただけでもこの珍道中にオチがついているのにさらにオチをつけなくても・・・
 とにかく楽しい原付珍道中だった。