田舎のあの頃

8月に帰省した際に先祖の墓参りで父の実家に行ってきた。性格には父の実家だったところ。


おじさんが高齢で雪投げが大変になってきたことなどから別の地域に引っ越し、それにより父の実家は取り壊された。墓参りの時に跡地を見たけれど、なんだか自分の子どもの頃の思い出が抜け落ちたように感じた。その日の夜は食べ物もあまり喉を通らなかった。


父の実家にはお盆と正月に親戚一同が集まっていた。夏は畑で採れたスイカを家の前でいとこたちでむしゃむしゃと食べ、スイカの種を目の前の田んぼにプププッと飛ばしていた。雪で道路と田んぼの境がわからなくならないようポールが立っていたけれど、夏はそこにトンボが停まっていた。そしてそのポールの周りで夜はみんなで花火をしていた。


そんな自分にとって思い出のいっぱいある父の実家が、土台くらいしか痕跡は残っておらず、早くも雑草が悲しくもたくましく覆いかけていた。昔ながらの家という感じで広かったんだけど、更地の状態で見ると記憶より小さく感じた。ここに仏壇があって、ここがトイレで……とかあった頃の間取りを思い出しながらしばらく眺めていた。
その眺めている間に鼻に入ってきた田んぼの匂いが昔と変わっていなかったのが余計切なかった。ここから見る田んぼが世界で一番好きな風景で、父の実家はもうないのに田んぼの匂いはそのまま残っている。でも、いつかこの田んぼも耕作放棄地となってなくなり、田んぼの匂いではなくなるのだろうか。


もうない、でもまだあってほしかった。歳を取って離れるしかなかったおじさんを責めるつもりは全くない。なんとか残せなかったのか、残せないか。帰省が終わった今でもぐるぐると考えることがある。


父の実家、そこから見る景色、ずっと忘れない。ぽっかりと。