『どんまい』を読んだ

傑作。読んでいて体の内側が自然と熱くなり、続きが気になってわくわくしながら読めた。素晴らしい作品だった。
同じ重松清作品の「赤ヘル1975」を読めばもっと楽しめるが、読まなくてもこの一冊で胸を熱くできる。
社会に出た人、特に挫折や苦悩ややりきれないことを経験した、している人は全員読んだほうがいいとさえ思った。傑作。これが多くの人に読まれてほしいと思ったし、読まれなかったとしたら残念すぎる。


1番・元ヤンだけど母親が亡くなる前に吐いた暴言を後悔して更生した男
2番・息子は自分の思うように育たず楽をすることばかりでほとほと困っている薄毛オヤジ
3番・不動産屋の二代目のボンボンで苦労知らずの礼儀知らず
4番・プロ野球で活躍するピッチャーの高校時代の女房役。甲子園にも出たことがあるが、今は教員試験に落ちて就職浪人中
5番・キャプテン。離れた広島の親の介護問題と自分の家庭で悩みに悩んでいる
6番・中学の部活で揉めて野球を一度は止めた無口な中学二年生
7番・三十代半ばで親と同居中の独身男。お見合いは連戦連敗中
8番・単身赴任中で、孤独を酒で紛らわし週末の野球で晴らす
9番・中高とバントの達人だったが今はフルスイング命の、会社では上司や取引先からの無茶に悩む地味な男
補欠1・夫の不倫により離婚し母子家庭に。専業主婦からの再就職は厳しく苦戦中
補欠2・その娘。ピッチャー志望
監督・ちぐさ台カープ創立者だが過去などは謎が多い「カントク」。


こんな人たちが所属する草野球チームの話。スタメンと補欠、監督だけ見ると「なんじゃこれ?これで野球もの?」と思うかもしれない。実際の試合も、ルールにはない認定アウトや認定フライなど、普通ではない。それなのに読んでいて面白いのは、試合をする一人ひとりに物語があるからだと思う。それぞれの背景が見えた中で進む試合展開は本当にドキドキする。


人物の描写以外にも胸を打たれる場面や言葉はたくさんある。
プロの世界や大学はどのスポーツもリーグ戦が多いのに、必ず高校はトーナメントになる。だから全国制覇した人、チーム以外は必ず負けることになる。残酷かもしれないけどそれは「負け方」を教えるため、負けてからを考えるためだ、という物語中の会話には感心した。
また、「大事なのは長さだ。人生は長いから、野球が好きなら好きな野球を一年でも一日でも長くやるにはどうすればいいかを考えたほうがいい」という言葉が強く心に残った。野球を自分の趣味や友人、家族などに言い換えると誰にでも当てはまる言葉だと思う。


とにかく素晴らしい作品だった。本質は人とその悩みを描いているので、野球を知らなくても楽しめる。重松清作品久しぶりのヒット、いや大ホームラン。


どんまい

どんまい