『少しだけ欠けた月―季節風*秋』を読んだ

今年春から刊行された季節風シリーズもついに秋。今回も、せつない。
最初の「オニババと三人の盗賊」からぐっときた。オニババの気持ちも、オニババの息子の気持ちも、三人の盗賊の気持ちも伝わってくる。どの世代でもないのに、どの人物でもないのになぜこんなにどの気持ちもしっかりわかり伝わってくるのだろう。書き物作家、重松清だからこそできるこの言霊。
今回も12の短編が収録されている。「少しだけ欠けた月」の最後の2行がしっかりと心に残った。たった、2行、しかも直接的な表現ではない。それなのにその2行から3人の姿と格好、表情まで伝わってくる。素晴らしい2行、作者の才能が伝わる2行。
話全体としては「風速四十米」と「ヨコヅナ大ちゃん」が特によかった。「ヨコヅナ大ちゃん」の小学生の片思いの話は、日本男児にはきっと生涯変わらないであろう片思い観念を表している。大ちゃんの気持ち、本当によくわかる!
秋の夜長に、過ぎた夏とそう遠くないうちに来る冬を思い、そしてそれ以上に今や子どもの頃の秋を感じながら読むとたまらなくしみてくる一冊。春、夏、秋、いよいよ次で終わる。終わるのは残念だけど早く「季節風*冬」が読みたい。冬に読む「季節風」は一体どんな気持ちになるのだろう。

少しだけ欠けた月―季節風 秋

少しだけ欠けた月―季節風 秋