『東京漂流』

今、日本で生きているなら、今、読まないといけない本。
1980年代初めの金属バット両親撲殺事件や、深川通り魔事件、ヨガ教師失踪事件、東京最後の野犬などについての記事があるが、そこで著者が思ったこと、考えたことが色褪せず現代にも言える。30年近く前の状況と今が実はほとんど変わっていないことに気付く。変わっていないのに全て変わり新しい時代になったと勘違いしているだけではないか、と考えさせられた。
事件についての記事以外にも様々なことが書かれている。インドに行ったとき路上で見かけた光景とその後のマンジュールとの会話の章は、読んでいて、衝撃を受け、今までの考えの危うさに不安を抱き、泣きたくなり、息苦しくなった。一番印象的だったその章も含め、善行ということ、自然を排除することが現代人は(1980年も2008年も)綺麗であると根底では思っているということなど、衝撃を受けることばかりだった。写真と文から力を感じた。力強さというより力そのものを感じた。
最初から読んでいくと、後半の記事の「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ」が実に説得力を持つ。多分いきなりここの部分を読んだら拒否反応が起こったと思う。しかし最初から読み、考え、次に進むと、この人間の死体が犬に食われている写真とそれに対する記事に対し不自然な刺激を抱かない。「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ」という意味が伝わる。自由であるし自然である。
古さを感じない。なぜこんなことに気付かず生活していたのだろうと思った。今、読まないといけない本。

東京漂流 (朝日文庫)

東京漂流 (朝日文庫)