『哀愁的東京』

今住んでいる地「東京」と大好きな重松清の作品名に入っている。ぜひ東京で読みたかった。
文庫からさみしさがしみだしているように思えるくらい最初から最後までさみしさに満ち溢れている。売れない絵本作家でも、エリートサラリーマンでも、アイドル歌手でも、SMの女王様でも。
SMの女王様の真理さんが、人間は性善説性悪説かという主人公進藤の話を酔いつぶれながら聞き、性強説と性弱説ではないかという場面が印象に残った。
「もともと弱いのに強いふりしちゃうのって、ほんと、悲しいよね。でも、そこがさ……そこがさあ……そこがね、なんていうか……そこ、なのよねえ」
という真理さんの台詞、はっきりと言っていないけれど伝わってくる。
弱いのに強いふりをしてしまう、現実世界にそんな人はいっぱいいる。だから真理さんが言うようにほんと、悲しい。自分の弱さをしっかり見つめず知らず知らずに強いふり。そんな悲しさには気付かず例えばメール一通がほんのちょっとの時間来なかっただけでさみしい、悲しいと思ってしまうあべこべぶり。東京に限らず全体的に哀愁的○○な世の中だと思った。
さみしさに溢れる作品だが、最後には前向きな姿、肯定する姿勢が見られた。ただ、それが分散したそれぞれの話のラストにまとまっていない感じがして少し残念だった。進藤の気持ちの変化がもう少ししっかりとした流れになっていてほしかった。

哀愁的東京 (角川文庫)

哀愁的東京 (角川文庫)