『さつき断景』を読んだ

1995年から2000年までの話。ただし、毎年5月1日だけを切り取っている。1995年から2000年までの毎年5月1日をタカユキ、アサダ氏、ヤマグチさんの3人がどう過ごしたかが書かれている。
大きな事件はないけれどそれぞれの家庭内では気になることが起こっている。高校を辞めるかと考えているタカユキ、定年前に出向になったアサダ氏、一人娘がこの先も自分をことを好きでいてくれるか気になるヤマグチさん。確かにどれも小説らしい大きな話ではない。しかし現実の誰もが同じような思いをしたことがあるはずだから小説の中の話が近くに感じてくる。
さらにそこに実際の話がリンクしてくる。オウム事件王監督と長嶋監督のON監督、東京ドームの橋本vs高田、オヤジ狩り、あゆ人気、ノストラダムス、バスジャックといった事柄が直接は絡んでこないけれど登場人物の読む新聞やテレビといったところに出てくる。どちらかといえば悪いニュースを取り上げているので、いかにこの時期が渾沌としているかがわかる。その中で個人的な渾沌とした思いを持つ登場人物。それぞれがうまくいくことはない。むしろ悪いことがやってくる。不安を抱き、悩む。それでも一生懸命前を向こうとする姿勢にフィクションの中の世界から勇気付けられた。
タカユキ、アサダ氏、ヤマグチさんは直接会うことはなく別々の話になっている。しかし最後に少しだけ関係する。直接顔を合わせることはないけれど素敵なラストになっている。

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