『セックスボランティア』を読んだ

一年に一度の風俗が楽しみな男性。風俗店で働く女性。出張ホストと関係を持つ女性。世の中にはいっぱいいる。もちろん障がい者でも。
酸素ボンベをはずしてでもセックスがしたい。性欲があるなら当然だと思う。
障がい者の「性」について書かれているこの本。
障がい者の性」というのはタブー視されている。されてきた、ではなく今でもされていると思う。障がい者自身、介助する人たち、親族、そして世間。どれもまだきちんと絡み合っていないと思う。
でも結局「性」とは障がいの有る無しではなく誰もが抱くものだ。
障がい者だって性欲がある」という当然のことを知らない、気付かない人が多すぎると思う。身近にいないので考えにくいということもあるが。
誤解を恐れずに言えば「障がい者だってエロい」のだ。「障がい者だってヤりたい」のだ。当然のことなのにタブー視されている。
それについてしっかりと書いた本書は十分意味のある本だと思う。『セックスボランティア』というタイトルは中身を全て読むと合っていない気がする。それでもそのタイトルが興味のない人の興味をひき本を手に取らせるのであればそれでいいのかもしれない。
『「性」とは生きる根本』という言葉が本の中で出てくるけど、いい言葉だし鋭いと思う。「性」について自分と見詰め合うこと、それが重要であり必要だと思う。
脳性麻痺で障がいが重くなる中風俗店に行く男性、障がい者専門の風俗店を経営する男性、より偏見の目が強い知的障がい者のセックス、海外での性介助の問題など広く書かれている。
バリアフリー」なんてよく世の中では言われているけど、バリアフリーされている建物などに行けないほど重度の障がいを背負っている人はバリアフリーを感じない。物質的ではなくそもそも根本的なバリアフリーは全然できていないと思う。
この本はなんら美化せず書かれているのが良い。終盤筆者の心情が強く書かれている場面があるが、それ以外は取材の事実をそのまま書いている。
障がい者へのケアだと思う介助者の気持ちと、同情はいらない、楽しいセックスがしたいという障がい者の気持ち。どちらが正しいなんて書いていない。そのままの事実が書かれているので読んでいる間は常に考える。
自分がもし重い障がいを持ったら。それでも性欲は生きている限り起こると思う。その時にその性欲はどうするか。自分の手でマスターベーションができなかったら。マスターベーションの介助をしてもらうかもしれない。ただ恥じらいや葛藤は生じる。今はそう考えるけど実際にその立場になるとまた変わるかもしれない。「性欲」という根本的なものを「介助」ですませられるか、満たせるか。恋愛感情はなくてもいいのか。考えは一つにまとまらない。でも今考えることは意味があると思う。これ以外にもこの本は自分で考える場面が非常に多い。
障がい者の「性」に関してはこの本だと思うけど、障がい者の「生」に関しては『無敵のハンディキャップ』がいい。

どちらの本でも共通しているのは「同情はいらない」という言葉だ。
知らないうちに優しさという言葉に見える差別を作っているのかもしれない。
セックスボランティア』中で街中で「大変ね」と声をかけられる場面がある。この場面を読んでホーキング青山のライブの話を思い出した。
ホーキング青山が街中を歩いていた時おばさんに「かわいそうねえ、頑張って」と言われて千円を渡されたらしい。これなんてモロに差別だ。その後そのお金でエロ本を買ったという話には笑った。
向き合えば向き合うほど結局何も変わらないとわかるのになぜだと思う。だから結局障がい者への差別は今でもある。これは断言できる。小中学校の頃変なことするやつを「お前シンショーだろ、シンショー」というやつがいた。身体障がい者、略して身障。身障の本来の意味ではなくシンショーという別の言葉に聞こえた。何も見ていない人は何も考えずに言葉が使えるんだなと思った。
○○だってという言葉が既に差別かもしれないけど、障がい者だってエロいのだ。
親の友だちで障がいを持っている人と昔からよく話をしていたけど、その人の下ネタがめちゃくちゃ面白かった。自分がガキの頃は相手もからかう感じでソフトな下ネタを言っていたけど、ガキだったので「聞いていいんだろうか」とドキドキしながら聞いた。高校生にもなるともうドキドキはしなくて「うまいなあ」と感心しながら笑っていた。
他の障がいを持っている人からは最近はコンビニのエロ本コーナーが厳しすぎて困るという話を聞いた。場所が追いやられて狭いから車椅子では立ち(?)読みがしにくいうえ、ほとんどが紐やビニールで結ばれているから中身を見て決められないらしい。う〜ん、なるほどと思った。中身が見られないようになってきているのは知っていたけど、コーナーが隔離されているせいで車椅子だと厳しいというのはそこで初めて知った。気付いた。バリアフリーじゃねー。
障がい者と性というどちらも普段あまり身近に考えない話について書いてあるこの本。当然のことを書いているんだけど、なかなか広くは伝わらないし理解されない。しっかりと向き合うことが大切だ。その前に向き合う機会を持つことが必要だ。
タイトルと帯の『「愛しあいたい、触れあいたい。」 障害者の痛切な想いに迫る、衝撃のノンフィクション』というのが重い感じがするけど、中身はそんなことはない。
感想がうまく書けない。考えがまとまらないまま書いてしまった。まだ考えている。
個人的な意見だけど、「障害者」という表記変えないのかな。その表記で既に入り口に大きな壁がある気がする。


セックスボランティア (新潮文庫)

セックスボランティア (新潮文庫)