『コロナと潜水服』を読んだ

奥田英朗の最新作で短編が5つ。どれも不思議な力、現象が含まれているプチファンタジーになっているが、そのありえない設定がとても優しくて、面白い。


・海の家
とある事情から一時的に別荘を借りて仕事をするはずが、別荘の掃除にハマってしまい、やがてその家の出来事に動かされ……と、いつの間にか不思議な展開に入り込める。海の情景や夏の日の雰囲気が文字だけの紙から伝わってきてとても心地よい。

ファイトクラブ
前の「海の家」を読んだ後だとこの作品の重要人物は実は……と思ってしまうけど、それを含めても夢中になれる。追い出し部屋に異動させられたおじさんたちが久しぶりに熱い気持ちになり、一生懸命に一つのことに向き合う姿は読んでいて心が元気になってくる。

・占い師
自分の価値とは、自分が相手に求めるものとは、というところから自分の価値観は何なのかを主人公を通じて考えさせられる。相手の調子しだいでコロコロ気持ち切り替わるくらいの恋愛にしがみつくのか、そこに光はないと別の道を進むのか。現実世界でも多くの人がモヤモヤとしながら過ごしていそうなテーマ。

・コロナと潜水服
表題作。テレワーク、コロナ禍での子供の世話、見えない恐怖から来る過剰な防衛意識と、2020年のコロナの世界をかなりリアルに描けていると思う。タイトルのコロナはわかるが潜水服って?と思っていたので、それがわかった時には申し訳が少しにやけてしまった。

・パンダに乗って
昔からの憧れを手にしたら、不思議な昔話に戸惑いながらも楽しく巻き込まれていく。この本の最後をしめるとても読後感の良い話だった。


やっぱり奥田英朗はいい。ステイホームに読むにはぴったりの一冊だった。


コロナと潜水服

コロナと潜水服