『死にたい夜にかぎって』を読んだ

ラジオ番組「真夜中のハーリー&レイス」で、挑戦者(ゲスト)が爪切男さんだった時の話が非常に面白かったので、著作も読んでみたいと思い買ってみた。これがデビュー作。
震えるほど面白かった。


1人の女性との出会いと別れがメインで、その女性との出来事の中でこれまでの初恋や初体験や付き合ってきた人たちのことを思い出し、それらのエピソードが描かれる。
初体験の人は出会い系で、車椅子に乗った人で、さあ初体験という時にエメラルド・フロウジョンをかけた。
自分の自転車の鍵を一生懸命壊そうとしている姿を見るのが初恋の人との久しぶりの再開だった。
今の彼女は目が覚めると自分の首を絞めている。
・・・そんなどうしようもないこと、無茶苦茶なことばかりが次々と書かれているけれど、それがとてつもなく面白い。
そして、染みる。じわりよりもっとゆっくりとしたスピードで胸に広がる。


プロレスたとえなどでテンポよく進む文体の陰に、悲哀が含まれている。でも悲しいだけで終わることはなく、むしろポジティブに進んでいる。作者の幼少時代も書かれていて、これだけ過酷な過ごし方をすると普通はひねくれたり(多少はひねくれているが)ネガティブ思考になったりするかと思うのだが、作者(主人公)は悲哀を全て前向きに乗り越えている。いかに「まあいっか」で生きていくことができるかということに執着しているとすら思える。


過去の女性たち、そして今の女性が交互に出てくる中で話は終わりを迎える。そのラストでさえ、別れでさえ、主人公は面白おかしく乗り越える。
まさに清濁併せ呑む、なんだって飲み込んでやるといった作品。
この作品が世間にほぼ認知されることなく埋もれていくのがもったいない。どんな人生だって、どんな生き方だってその人にとってがむしゃらなら「人生の無駄遣い」なんてことはない。


苦しいけど、優しい。とにかく最初から最後まで読むと震える。


死にたい夜にかぎって

死にたい夜にかぎって