『慟哭』

連続する幼児誘拐・遺棄事件と怪しい新興宗教。それぞれが交互に書かれて収斂していくように見せる。
捜査一課長の佐伯の人間性が緻密に書かれていて引きつけられる。冷静な判断で事件を解決に導こうとするキャリア、政略結婚に使われた一人の男、それでも心の奥では娘を思う一人の父と、様々な佐伯像が見せられ終盤に向かっていき、そして最後に描かれるのはまさに慟哭。
新興宗教のほうで語られる「彼」の正体が早い段階で想像できたのでそれがわかった時の驚きはやや少なかった。これがわからなかったら幼児事件と新興宗教の「繋がり」で相当驚いたような気がする。そう考えれば気付かないまま最後まで読みたかった。
「彼」がわかっても、誘拐・遺棄事件の「犯人」がわかっても、それでも最後の一行にこの作品全体の恐ろしさと後味の悪さが残る。慟哭。

慟哭 (創元推理文庫)

慟哭 (創元推理文庫)