『魍魎の匣』を読んだ

タイトルどおり「魍魎」と「箱」がとにかく、とにかく絡み付いてくる。
特に箱、箱、箱箱箱、、、とあらゆる箱がまとわりついてきた。
読了して思うことは、この『魍魎の匣』というタイトルが本当にぴったりであるということ。「匣の中の娘のように」ぴったりとはまっている。
そして構成も非常にうまい。最初に書かれている「(前半部略)」から始まる意味不明な文章。それが妙に気になり読み進めていく。終盤でその文章の意味も裏の真相もわかると思わず一番最初を読み返してしまう。本文前の「一日も早い『科学の再婚』の成就を願う多くの輩に捧ぐ―――」という言葉も本文を全て読んだ後には深い意味を持っていると気づく。
その他にも、所々に入る久保の文章や、登場人物の切り替わりの文章が謎を深めると同時に、それらの憑き物が落ちたときのすっきりとした気持ちを高めさせる効果がある。冗長とも思える京極堂の講釈も終盤にしっかりと効いてくる。
発生するそれぞれの事件はどれもが不思議、猟奇的で、どれがどうなってどう関係しているのかわかりにくい。しかし京極堂にかかるとそれらのぐちゃぐちゃに絡まった糸が綺麗にとける。事件一つ一つの謎はある程度は推理できたけど、全てが絡んだときの真相は読めず、最後の100ページは驚きの連続だった。まさに魍魎。
ミステリーを読むときはトリックと同じくらい犯罪を犯す者の心理を重要視しているけど、この作品は人間描写がとてもよく書かれていた。ラストは完全に入り込んでしまった。京極堂が言う「動機などない」という言葉に思わずうなずく。
魍魎が話全体に潜んでいる。そしてこれだけ複雑な複数の事件と複雑な人間関係があるのに、きちんと全て書かれている。それこそ「隙間無くみっしりと満たされた箱」のように不明点や不足がなく完結している。
箱の中での全ての魍魎とその箱の中の魍魎の結末には驚いた。
読んでいるうちにこっちにまで魍魎に惑わされてしまったみたいで、関口の気持ちが書かれている最後の一文には思わず同意してしまった。私もやっぱり箱の中が見たい。箱を持って歩く男が羨ましい。



文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)