『星へ落ちる』を読んだ

現在の「私」と「彼氏」、「私」が「彼氏」を好きになる前に付き合っていた「俺」、「彼氏」とは体を求め合うこともあるが恋人ではなく束縛もしないと決めている「僕」の4人の物語。「私」「俺」「僕」の3人のそれぞれの思いが書かれた5つの短編がつながりを持ち連作短編になっている。
金原作品にある「依存」が今回も強く書かれている。「私」「俺」「僕」の誰もが相手への強い依存を抱いている。それをストレートに相手に示す者もあれば、それを表すことが相手の迷惑になるのではないかと思い出せない者もいる。ただ、それぞれの短編の中で見える心の中の気持ちは共通している。自分よりも相手が大事、思うことが相手に迷惑をかけているのではないかと思い自らを嫌う自分、歪みにすら見える思いが強烈に伝わってくる。本当にこんなに思える相手がいたら自分もこうなってしまうのではないかと思わせる力がある。
「依存」と同時に毎回書かれる「料理」も今回それぞれの話で出てくる。今までの作品では大抵は吐かれたり捨てられたりする料理が、今回は若干思い出のものとなっていたり男性が作ったりと変化している気がした。まあ、しっかり今回も吐かれている場面があるのだけれど。
客観的に見るとなぜそこまで相手に依存しハマるのかと思うのだけれど、もし自分がその立場になったら自分もそうなってしまうのではないかと思わせる作風は毎回感心してしまう。依存の強さに比例して疑いや悲しみも強くなる、近づけば近づくほど不安になる、そんなただ相手を好きになるということを超えた感情が見える。そしてこの作品のうまいところは「私」と「俺」と「僕」の短編はあるのに「彼氏」の気持ちが書かれたものはないということ。「私」は「彼氏」が好きで、「俺」は「私」を「彼氏」に取られ、「僕」は「彼氏」を待っている。全員が共通して関わっている「彼氏」はどう思っているのだろう、と考えても「彼氏」の気持ちが書かれた短編はない。一体「彼氏」はどう思っているのだろう。「私」と「僕」に強く依存されている「彼氏」は誰を思っているのだろう、誰も思っていないようにも思える。そんな「彼氏」も誰かに依存しているのだろうか、そうだとすれば誰なのだろうか。一番重要な「彼氏」が見えないことによって読んでいるほうは考えさせられる。
全体的に物静かに内面の気持ちが書かれている感じで、今までの金原作品にあったぐちゃぐちゃ脳内ミックス、ノンストップ溌剌(オートフィクション)な感じがなかったのがちょっと物足りなかった。連作短編としては十分面白いけれど、『AMEBIC』や『オートフィクション』のようなすさまじいテンポと溢れ出る感情文章がある作品も読みたい。そういえばお下劣言葉も今作はかなり減っていた。
ちなみに「星へ落ちる」というタイトル、なんかとてもいい響きがする。「に」でも「が」でも「と」でもなく「へ」がなんかいい。

星へ落ちる

星へ落ちる