『夢を与える』を読んだ

蹴りたい背中』では、推敲に推敲を重ねたような個人的には読むのに力がいる文章だったけれど、今作ではそんな感じは受けなかった。いい意味で力が抜けている印象を受けた。
読む前は「夢を与える」という題名を見てなんて華やかでデカいことを題名にしたんだ、と思ったけれど、中身を読むとこの「夢を与える」という言葉の残酷さが伝わってくる。前作にはない過激な描写もある。
芸能界という異常な世界での、成功と転落という芸能界ではある意味大多数にあてはまる普通な出来事を書いている。子どもの頃は何もすれたところがなく純情なままで周りに影響されることもなかった主人公が、ショックな出来事とブレイクした瞬間から一気に崩れていく。そこの部分が自然に書かれていて無理のない展開になっていた。
そして後半になりなぜ主人公が生まれる前の出来事を冒頭に書いてあるのかがわかった。結局母と同じことをしている。「別れる」と言った男性をひきとめ自分で幸せを掴んだつもりが堕ちて行く。母も娘も同じことを繰り返している。
早熟で冷静に自分の状況を理解している主人公が転落してくことは止められない。その止められず堕ちて行く過程は読む人をひきつける強さがあった。

夢を与える

夢を与える