『対岸の彼女』を読んだ

 最高。大満足。この本に出会えたことを幸せに思う。超おすすめ。読んで絶対に損はないと思う。
 最初の40ページを読んで興味を持ったら、その興味はもう間違いのないものだと断言してもいい。その興味は読み進めるにつれ面白さになり、辛さになり、深慮となり最後のページにまで続く。
 1、2、3、4、と今の小夜子と高校の頃の葵の話が交互に展開する。その交互に描かれる二人が最高にいい。たぶん読んだ人のほとんどは序盤で「今の小夜子=高校の頃の葵」と錯覚するのではないだろうか。
 そして「今の葵=(小夜子にとっての)ナナコ」であることに、小夜子・葵・ナナコが描かれた意味が深く浮き出される。著者が意図的したものだと思うが、それが抜群にいい味を出している。
 そしてこの物語全体に言える絶妙な構成。もうこれには本当に感服した。単純にすごいとしかいいようがない。どうしてこんなに多くの人の気持ちを一人の著者が書けるのだろうと思った。出てくる全ての人の気持ちがよくわかるし、言いたいことも伝わってくる。でも分散せずにその中で中心の人の気持ちをうまく引っ張って次に進む。
 特に中心となる小夜子と葵、高校の頃の葵とナナコと、その後の繋がりは読んでいて考えられないくらい綺麗に結びつく。今なぜ彼女らがそういう性格、人間性なのかがわかるし、それを知らない「今」の彼女はそこが理解できないし苛立ってしまう。日常のどこにでもありそうな感情が繊細に描かれている。
 こういう小説があるから読書は止められない。
 中盤のアクセント、そして終盤へ向かうちょっとした勘違いと不安、わかろうとしない気持ち。読んでいて心苦しくなってきた。ネタバレだが、最後がハッピーエンドで本当によかった。
 『対岸の彼女』という題名は、読み終わった今本当に素晴らしく、これ以上ないセンスだと思う。
 「なんのために」と「ねえ、前も言ったけど、あたし、大切じゃないものって本当にどうでもいいの。本当に大切なものは一個か二個で、あとはどうでもよくって、こわくもないし、つらくもないの」が、今と過去、そして読了後のテーマ。


対岸の彼女

対岸の彼女