『書楼弔堂 炎昼』を読んだ

うん、面白い。大きな事件は起こらないし、舞台が毎回変わるわけでもない。基本的に舞台は本屋の弔堂もしくは弔堂近所しか登場せず、弔堂でも主人と客人がひたすら話すだけ。それでも面白い。前作の『破曉』よりも面白くなっているように感じた。
訪れる人は皆悩みを抱えていて、それを弔堂主人や主人から紹介される本によって道を見つけたり救われたりする。主人や本が解を出してくれるのではなく、実は解は自分で持っていて、主人や本はあくまでもそのきっかけという構成が素晴らしい。


悩みは誰だってあるけれど、実は悩んでいながらも自分はどうするべきかは心の奥底で識っている、でもそうだと言えない、踏み出せないからその悩みを抱えたままい続ける。現代でもそれは変わっていないだけに、登場人物のそういった姿にはよく共感できるし、そして悩みを誰かに言える、自分の考えをぶつけ合えるという弔堂という場はいいなあと思える。明治の人も現代の人も、偉い人も凡人も皆悩む、そして答えはあるのだけど、それを決める、進めるちょっとしたきっかけがほしい。


そんな人たちが相談所ではなく本屋の弔堂に訪れるが、登場する人たちは有名人ばかり。勝海舟添田唖蝉坊福来友吉平塚らいてう乃木希典と錚々たる客人たち。教科書で習った歴史上の出来事や偉人の決断が全部全部この弔堂で決まったんじゃないかと感じる。もちろんフィクションなんだけど、まるで本当にそうだったかのように錯覚するほどこの作品はよくできているし面白い。あのリング貞子の原型すらこの弔堂で生まれた!と思わずにはいられない。


その客人の中で塔子さんと共に一番出てくるのが松岡様。経歴と下の名前で大体歴史上の誰なのかがわかるけれど、一番最後にはっきりと書かれて良い終わり方になっている。悩み、悩み、諦めよう、捨てようと思い続けてきた松岡様がこの先どう生きていくかを見つけられた姿が見られて良かった。


書楼弔堂シリーズ、続編があるならぜひぜひ読みたい。ただただ本を読み、時に語らい、そして静かに過ごす、そんな生き方だってあるしいいんだと肯定された気がする。本はいいなあ。


書楼弔堂 炎昼

書楼弔堂 炎昼