『紙の月』を読んだ

久しぶりの衝撃作。ホラー描写、暴力的描写はないのに読んでいてどんどん怖くなっていった。読みながら震える。


堕ちていく数年前から書かれているが、そこには一億円横領の女、というイメージとは程遠い、ごく普通の女性がいる。それが少しずつ、悪意があるわけではないのに歯車がずれていく。あの5万円がなければ、と読んでいる側も思う。その5万円も悪意なんてないのに。


家庭のこと、得意先周りのこと、そして得意先での出会い、そういった少しずつの日々の出来事がやがて梨花を狂わせていく。他人のお金を奪い取っているという感覚が段々と麻痺していく様子は、読んでいて本当に恐ろしくなった。特に終盤の自分でもいくら横領しているのかがわからなくなっていく展開は、ページをめくるのが息苦しくなっていった。
この作品で恐ろしいのは、横領した梨花だけではなく、周りの人間も段々と麻痺し狂っていくところだ。光太なんかも最初は普通のどこにでもいそうな夢に向かう熱い学生だったのに、いつの間にか贅沢な暮らしが当然だと思い、そしてやがてそこに居づらさを感じ出ていこうとする。他の人も皆お金に振り回され、お金に切り刻まれ、絞め上げられている。何が怖いかと読了後考えたら、自分だってそうなるかもしれないと思えるからだと気付いた。自分だって少し歯車が狂えば作中の誰かみたいになるかもしれない。そんなはずはない、と思えないところにこの作品の怖さがある。


外に出るつもりがここから出してと懇願する、誰も縛っているわけではないのいに。怖かったけれど、読んで本当に面白かった。

紙の月 (ハルキ文庫)

紙の月 (ハルキ文庫)