『最悪』を読んだ

鉄工所社長の川谷、銀行員のみどり、チンピラの野村の三人だけの話。他にも出てくるが、この三人だけといってもいいほど。
全648ページの中で三人が絡むのは510ページを過ぎてからなのだが、その前の500ページ強の展開もしっかりしている。そこがしっかりしているからこそ三人が絡んだ時の爆発力と加速力がすさまじい。
鉄工所社長、銀行員、チンピラという一見関係になることがないと思われる三人の、それぞれの生活が始まりから細かく書かれている。本当に、本当に些細なことの積み重ねで悪い方向に進んでいく。抗おうとするけれど落ちていく。その過程が非常に緻密に、リアルに書かれていて、自分もほんの些細なことからこうなることがあるのではないかと思うくらい現実感があった。
三人の展開が代わる代わる書かれていくが、いつも次が気になるところで切り替わるので長編にもかかわらず読み疲れない。川谷の場面で次が気になるところでみどりの場面に変わる、しかしみどりの場面が前気になっていたので読みたくなる、という具合になるのできりのいいところが見つからずぐいぐいとひきこまれずっと読んでしまった。
三人のそれぞれの生活がいつの間にか悪い方向へ向かい、全く接点のなかった三人が交差したとき大きな変化が生まれクライマックスへ向かう。よく練りこまれた素晴らしい作品だった。

最悪 (講談社文庫)

最悪 (講談社文庫)