ショートフィクション 『遠くにありて』

離れる当日は必ず腹のあたりがぼわっと重くなる。少し食欲がなくなる。短期間でも長期間でも離れる日は必ずそうなる。
普段腹の調子が悪くなることなんてまずない。まして食欲がなくなることなんてない。
一人の生活は楽しいし、今さらホームシックなわけがない。
バスに乗ってちょっと離れるとそんな不調はなくなる。
離れるのが嫌なわけではなく、離れるその瞬間が嫌なんだと思う。「くっつく」「離れる」の間にある「接点」の瞬間が嫌なんだと思う。
離れると次くっつくのが楽しみになる。離れた瞬間から次を楽しみにしてしまう。だから人様に恥ずかしくないように生きようと思う。人前に出られないようなことしたらもう行けなくなるし会えなくなる。


家族も友人も故郷も遠くにありて思うもの。
字にするとなんか重い。
カゾクもユージンもコキョーも遠くにありて思うもの。
こっちのほうがいい。これがいい。
離れるからいいし離れるからまたくっつきたくなる。
あまのじゃく。