『疾走 上』『疾走 下』を読んだ

暗い、重い、痛い、壊れてゆく。冒頭が一番明るいのかもしれないと思うくらいどんどん重く暗くなっていく。
上下巻あるからゆっくり読もうと思っていたが読み始めたらその壮絶さにひかれ一気に読んでしまった。とにかく読みたかった。とにかく先に進みたかった。今日という日がこの作品を読むためだけの日であっても後悔はしない、それくらい私にとって衝撃的な作品だった。
「人間」が、「にんげん」が強烈に描かれている。崩壊、運命、平等、公平、孤独、孤立、孤高、被害者が加害者に、加害者が被害者に。出来事も衝撃的だが、それぞれの人物の心理が心に突き刺さる。出来事はほとんどの人が経験したことのないある意味現実離れしたものだが、心理は誰もが思う、感じることばかりだ。心をえぐられるような描写、感情が何度も何度も出てくる。
上下合わせて764ページ、一気に読んだ。読み終わった時深くため息をついた。ため息をつくしかなかった。最後2ページに一筋の、本当にわずかな光。
まだ今年は二週間弱残っているが、今年読んだ小説のベストは『その日のまえに』とこの『疾走』だ。奇しくもどちらも重松清の作品となった。『その日のまえに』のような世界も『疾走』のような世界も書ける重松清の才能にただただ脱帽。

疾走 上 (角川文庫)

疾走 上 (角川文庫)

疾走 下 (角川文庫)

疾走 下 (角川文庫)