故郷の車窓から

実家に帰る前はいつも親孝行しよう、手伝ってあげようと思っているのに、いざ実家に帰ると意味もなく無愛想になったり面倒くさがったりしてしまう。心の中では違う、違うんだよと思っているのに。だから実家に向かう時の新幹線の中が一番素直になれているのかもしれない。そして今帰りの新幹線の中で全然親孝行も手伝いもできなかったなあと後悔してしまう。毎回後悔しているのに、毎回直せない。
実家に帰ったとき、学生時代の卒業時の引っ越しで実家に持ってきた段ボール荷物を整理して片付けろと言われた。元々大分整理して残したい物を持ってきたのにさらに減らせと言う。ここでもまた無愛想になりしぶしぶ段ボールを開けて整理していると、親父が「歳取って荷物持てなくなる前に子どもの物まとめたいんだ」と言った。ドキッとした。もう来る日を思っているのか、親父も老いを考えているんだと思うとさみしくなった。聞こえないふりをしていたが結構、きた。親父のバカ。
夕食中に酔っぱらった親父が、テレビのことでありがとうと言ってきた。あの天の邪鬼の親父がまさかそんなことを言うとは思わなかった。そんなにテレビ欲しかったのかあと思っていると、モノがどうこうじゃなく思ってくれている気持ちがありがたかったと言われた。親父の顔は見られずここでも無愛想になり、テレビの映像を知らんぷりして見ていた。俺こそ、その気持ちが嬉しい。でもどんなに酔ってもそのことは言えずただ無口になっていくだけだった。素直に言えない自分はやっぱり子どもだ。
いくつになっても、環境が変わっても、いつも親父は「悪いことはするな」、おふくろは「ちゃんとご飯食べているか」と言う。ああしろ、こうしろと言われた記憶はほとんどないし、今も仕事がどうだとかは言ってこない。ただ、この言葉だけはいつも変わらない。この言葉と帰省していた日々が、実家を離れても頑張れる力になる。だから親父もおふくろも元気でいてほしい。
実家に帰ってこいなんて言ったことのない親に甘え、まだまだ好きなようにやっていきたい。ただ、帰省できるときは必ず帰ってくる。帰ってきたい。また帰ってきたい。次はお盆。