『旧友再会』を読んだ

重松清作品らしく奇跡は起こらない、でも必ず胸に温かいものが残る。いろいろな問題がどんどん嫌にくっきりと見えてきている2019年日本になくてはならない一冊だと思う。
この一冊、1000万部くらい売れて広がるべきだと真剣に思っている。
R35指定ともいえるこの作品、30代にはいつか来る未来のために、40代50代にはもう来ているかもしれない現実をどうにか過ごしていくために全員が読むべきだと思う。暗かったり重かったりする話が多いけれど、でも思いや人との関係で色は少しだけでも変わるということが伝わってくる。
この一冊を読むことができた自分は幸せ者だと思う。


・あの年の秋
上野動物園にパンダが来た頃、我が家にはおばあちゃんが一時的に来た。しかも痴呆かもしれない。その時の子どもが最後には、という展開に心が震えた。この作品が一番泣きそうになった。

・旧友再会
地元を出た同級生と地元のタクシー会社で働く自分がタクシーで再会。地元に久しぶりに帰ってきた同級生の理由が、重い。うまくお互いわかりあえないし問題は解決していないんだけど、それでも最後には僅かな前向きな光が見えるのがいい。

・ホームにて
負けが決まってもそれでも懸命にこなし続けた人たちの昔の、そして今の姿が泥臭くでも美しく描かれている。「休む元気も出てくるさ」という言葉の重みは、きっと自分にとってさらに歳を重ねた時によりわかるのだろうと思った。

・どしゃぶり
「旧友再会」にも似た設定だが、出てくる人物の過去と現実の落差がより見える作品。昭和の部活と現代の部活は違うのはわかるし、昔の非常識な部活は意味がないこともわかる。それでも、全てではないけれど昔の部活にあるなんとも言えないひたむきさは、今でも理解できる。昔も良いところは良いし悪いところは悪い、現代も同じ。そういう意味では現代も同じように苦しい部分がある。

・ある帰郷
離婚が決まり小2の息子と過ごす最後の帰郷。非常に短い作品だけど、ぎゅっと「旧友再会」のコンセプトが詰まっている。


旧友再会

旧友再会