革命終焉

天龍源一郎引退興行をニコ生PPVで観戦。
実況の清野さんと解説のデンジャラスK川田が出てくるだけでウルッとしてきて、興行開始でサンダーストームが生演奏されると早くも号泣。本当にあのミスター・プロレス天龍源一郎が今日引退するんだなとサンダーストームがやけに染みて泣けてきた。


第一試合「リッキー・フジ高木三四郎 VS 菊タロージ・ウインガー
リッキー・フジがおじちゃんになっていたなあ。菊タロー中心にしっかり会場を温める良いオープニングマッチ。


第二試合「里村明衣子カサンドラ宮城VS DASH・チサコ&仙台幸子
映像で女子プロはなかなか見ないけど、現在の女子プロのすごさを見た。仙台女子いいじゃない。特にカサンドラ宮城がいい味出している。里村はもう別格。ガイアジャパンの頃からひたすらプロレスに真摯に向き合っていた姿が今の風格になっているのだと思う。


第三試合「獣神サンダー・ライガー筑前りょう太グルクンマスクシマ重野ドラゴンJOKER  VS 怨霊&空牙&TARU&FUJITA&ヤス久保田」
しれっとライガーの中の人と高校時代国体で戦ったことをバラす解説の川田。いやいや、ライガーは平成元年永井豪宅生まれで川田とは年が合わない!山田恵一はリバプールの風になったんだ!
そんなライガーは10人マッチの中でも役者が違う。ロメロ共演は大いに盛り上がった。
試合後ドラゴンJOKERがマスクを取りマイクを取ったけど、その後の川田の解説ではマイクを取った人はまだいないということになっていた。どうやら川田の中ではなかったことらしい。


第四試合「ザ・グレート・カブキ&KAI&舞牙 VS グレート小鹿葛西純&杉浦透」
カブキと小鹿の因縁、50年戦争ここにあり。解説の川田がここでも「三沢さんも昔小鹿さんに土鍋で頭を殴られた」など小鹿に恨みを抱いている人がカブキだけではないことをしれっと暴露する。
第一試合から感じていたけど、川田の解説が独特で面白い。まるで蛭子能収のようなシュート発言連発。「ハッスルはプロレスじゃないですから」とかシュートの連続。でも「リングの中でやってほしいですね」などしっかりと観戦客が思っていることを代弁してくれるからただ変なことを言うわけではない。とはいえシュート発言ブッコむので聞いていてヒヤヒヤしつつニヤニヤする。


第五試合「小川良成ケンドー・カシンVS NOSAWA論外新井健一郎
パクリ騒動で取り下げした東京オリンピックエンブレムのシールを胸に貼って登場するケンドー・カシン。さすが悪魔仮面、本日も平常運転。永田の顔写真シールも貼ってあると思ったが確認できなかった。
もちろんミスター・プロブレムことカシンは見た目だけじゃない。インディアンデスロックとコブラツイストを一人で二人にかける姿は会場も思わず「オーッ」と感嘆。さすがカシン、こういうところをさらっと見せる、魅せる。
序盤の技の攻防だけではなく、終盤仲間割れしてあーこれで終わりかと思わせてしっかりとアシストするところまで今日はカシンがしっかりと仕事をしていた。でも試合後にパートナーの小川に無理矢理握手とハグするあたりはやっぱりカシンだ。それにしても小川は老けないなあ。


第六試合「北原光騎土方隆司那須晃太郎 VS 中嶋勝彦佐藤光留橋本和樹」
北原が細くなったけど切れ味抜群の蹴りと動きで6人の中で一番輝いていた。
そしてここでも川田の解説が暴走。試合やっているメンバーではなくなぜか荒谷の現状情報。ついでに荒谷の娘さん情報まで。川田よなぜ荒谷のことばかり話す。確かにあの体格でムーンサルト綺麗だったけど。


第七試合「越中詩郎&嵐 VS 太陽ケア相島勇人
越中が年を感じさせない素晴らしい動き。ヒゲに白いものが目立つようになったからあまり期待できないかなと思ったら見事に裏切られた。動く動く、平成維震軍で毎日戦いまくった姿は伊達じゃないって!


第八試合「藤原喜明高山善廣 VS 鈴木みのる村上和成
昭和のテロリスト藤原と平成のテロリスト村上の危険な邂逅。さらに帝王高山と鈴木軍ドンの鈴木。
これだけの面子が揃ったけれど、やはり組長が持っていく。入場のワルキューレの騎行が鳴った時からもう組長ムード。リングでも場外でも、さらにはエプロンでもボッコボコにやられたけど組長なら……と思わせる眼光の鋭さ。
そして最後の最後に刀を抜いた。伝家の宝刀脇固め。完璧に決まりギブアップ勝ち。組長か、かっけえ!


第九試合「長州力石井智宏 VS 斉藤彰俊河上隆一
鳴り響く、鳴り響くぞ両国国技館にパワーホール!入場だけで一気に存在感を持っていく長州力。盟友天龍の引退興行でもいつもどおりのスタイルで戦う。
長州が全部持って行くかなと思ったけど、個人的には石井と彰俊の組み合わせが新鮮かつバチバチで続きが見たかった。NEVER挑戦とかないかな。


第十試合「諏訪魔&岡林裕二VS藤田和之&関本大介
ずっと続いてきた諏訪魔vs藤田が全日本でもIGFでもなく第三者のリングで実現。が、これがとんだ空回りだった。
ずっと続く睨み合いで期待させるもその後はプロレスとして成り立たない。自然と観客席から発生する「ダイニッポン」コール。お客さんはプロレスが見たいんだ。それをこのメンバーの中で期待するなら大日本プロレスの関本と岡林、だからお客さんはダイニッポンコールを全力でした。
諏訪魔と藤田だってお互いの気持ちをぶつけ合えばよかった。それならお客さんだって二人の戦いを応援した。それが全然成り立たない。諏訪魔は段々となんとか成立させようとするも藤田がひどかった、しょっぱかった。逆に関本と岡林の戦いは素晴らしかった。
試合後も自分の主張をマイクを使って言う藤田。どうしても自分のリング、年末の総合に持って行きたいんだろう。悪い意味での猪木イズムを天龍源一郎引退興行でも空気を読まずに行った。
お客さんは激しいプロレスが見たいんだ。遺恨があってもきっちりリングでお互いぶつかり合えば納得する。なんだ今日の藤田は。あの川田も辛辣かつ的確な藤田批判のコメントをしていた。なんというセミだ。


メインイベント「天龍源一郎 VS オカダ・カズチカ
オカダ・カズチカが先に入場。本当に来た、本当に現役のIWGPヘビー級チャンピオンが来た。まだ若いのに堂々とした佇まいを見せている。この大舞台でもいつもどおりの入場パフォーマンスができるオカダを見てこっちが緊張してきた。


そして遂に天龍源一郎入場。無数ののぼりが花道両サイドに立ち天龍を待つ。そこにミスター・プロレス天龍源一郎がゆっくりと現れる。サンダーストーム、そしてこの姿を見るだけで早くも涙腺崩壊。袖で拭っても拭っても涙が出てくる。
涙が止まらないまま選手コール。ここで今日最大の驚きが。なんと天龍源一郎ショートタイツ!今までずっと体調面などの関係でロングズボンだったのに最後の最後にバリバリの頃のショートタイツ姿!みんなが知っている天龍だ!みんなが知っている天龍の姿だ!


驚きとどよめきが館内に残ったまま試合開始のゴング。そこには65歳の現在の姿があった。
歩くのも辛そう、膝も腰も悪いのが傍目にもわかる動き。そこに現役チャンピオンが向かってくる。辛い、これは辛い。オカダとしても正直この状態の天龍を攻めていいのか逡巡があったと思う。そんな思いを断ち切ったのは天龍だった。館内に響くようなチョップ。「俺は最後だって真っ向から戦うよ」という意思の表れのようだった。
そんな天龍の姿を見て川田が涙ぐむ。全日本時代の関係や激闘を思い出したのだと思う。


火がついたオカダは手加減無し。エルボーや蹴りで天龍を倒す。倒される度に天龍の苦悶の表情がアップで写る。そして館内には「天龍!」「天龍!」という応援が飛ぶ。自分のようにテレビ観戦、映画館でライブビューイングを見ていた人も含めて「天龍!」と叫んでいたと思う。
本当に満身創痍な天龍、しかしオカタの攻撃は止まない。それでも天龍は少しのチャンスも逃さない。カッコ悪くてもいい、無様でもいい、とにかく戦うんだという姿勢が倒れ込みながらの頭突きに出ていた。気迫の頭突き。カッコ悪くたっていい。
そこから出ました天龍の顔面蹴り!四つん這いになっているオカダにつま先で蹴り上げる。おでこから顔にかけて真っ赤になるオカダ。全日レスラーにも新日レスラーにも容赦なくやりまくった顔面蹴りが引退試合でも出た。沸く館内、一気にチャンス到来。


コーナーでのグーパンチ&チョップでよろめかせブレーンバスター、そしてWARスペシャル!渾身のWARスペシャルをかける天龍の表情にこちらも力が入る。これで極めてしまえと思わず叫んでしまう。
だいぶ攻め立てるもやはり腰、膝が最悪の状態のようで動きが止まる。なんとかパワーボムを打とうとするも持ち上がらない、持ち上げられない。
動きが止まった天龍を現役チャンピオンのオカダが見逃すはずはなく、そこから怒涛の逆襲。さらにはトップロープからのダイビングエルボー!ダイビングエルボーを放つオカダよりも受ける65歳天龍源一郎にまた涙が止まらない。モロに胸元にブチ込まれ悶絶する天龍。立ってほしい、立ち上がってほしい。
立ち上がってなんとかラリアットDDTを打つもなかなか続かない。そんな天龍の姿を見て誰もが天龍の限界を知ったと思う。そして誰もが天龍の最後まで燃え続ける素晴らしさを感じたと思う。ボロボロだ、本当にボロボロの状態で戦っている。そこにひたすら胸が熱くなり涙がこみ上げてくる。


ボロボロの状態でなんとかグーパンチを放ち主導権を引き寄せようとする。ガクッと倒れ立ち膝になるオカダ。
そしてここで自分にとって一番胸を打つ技が出た。


延髄斬り。これが低い。オカダが立ち膝状態でもまだ届かないような延髄斬り。低い延髄斬り、世界一泣ける延髄斬り。
天龍はもう延髄斬りをこの高さでしか打てない体になっている。でもなんとか勝つために執念で延髄斬りを放った。その気持ちを察すると泣けてくる。この試合で一番泣けたシーンだった。「これが現実です」という実況も含めてこんなに泣ける延髄斬りはこれからも今後もないと思う。


そんな執念の延髄斬りが実ったか、一番のチャンスが訪れる。コーナーを背にして、コーナーの補助も借りてなんとかパワーボムを打つ。それが持ち上げきれず、投げっぱなしのような逆に危険なパワーボムになった。一瞬ヒヤリとしたがオカダはそこから立て直して容赦無い顔面ドロップキック!天龍の相手はするが遠慮も配慮もしない、そんな決意がこのドロップキックに出ていた。
天龍もそこまでされて黙ってはいない。この日のための新技「53歳改め65歳9ヶ月」をグサリと決める。しかしこれでさらに燃えたのが王者オカダ。ドロップキック3連発。全部喉から胸元にかけての強烈なドロップキック、容赦なし。
ドロップキックのたびに、天龍のグーパンチを食らうたびにオカダが吠える。誰に吠えているのか、天龍か、それとも観客か、それとも自分にか。そんなオカダが吠えれば吠えるほど泣けてくる。本気で天龍を介錯しようとしているから最後が見えてくる感じがして泣けてくる。


最後はレインメーカー。文句なしの3カウント。天龍源一郎引退試合は負けだった。しかし素晴らしかった。引退試合というプラス要素を抜いても2015年ベストバウト候補に入る良い試合だったと思う。


そして天龍源一郎引退試合を務めたオカダはとんでもない経験をして、とんでもないものを背負ったと思う。
ジャイアント馬場アントニオ猪木の両者から3カウントを取った唯一の男。ジャンボ鶴田、長州、藤波としのぎを削り、その下の四天王、闘魂三銃士ともバチバチやり合い、さらにはインディーにも幅を広げ電流爆破デスマッチも経験、性別の枠を超えて神取忍とも戦った男。そんな天龍源一郎と最後に戦ったのがオカダ・カズチカ。今日のこの一試合だけでもオカダがとんでもない良い動きをしていたし成長していった気がした。そしてこれからは天龍源一郎と最後に戦った男として歩いて行く。いやはやとんでもないものを背負った。
でもオカダならそんなプレッシャーすら超えてくれる気がする。やっぱりこの男がプロレス界を背負って立つのだと確信した。こんな最高の弩級試合を見せられたら、来年の1・4の結果は見える。棚橋に負けるはずがない。この天龍戦を超えたオカダはひたすら突っ走って行くと思う。それくらいオガダの素晴らしさを感じた。


試合後は引退セレモニー。激闘を繰り広げたハンセンとテリー・ファンクから花束を受け取る。最後は天龍プロジェクト代表であり娘の紋奈さんから労いの言葉をもらい笑顔になる天龍。
そして引退の言葉。
「本当に腹一杯のプロレス人生でした
 もうこれ以上望むものは何もありません
 ありがとうございました

 みんなありがとう!」
ボロボロになったけど最後まで怖さとすごさを見せた男がシンプルにハスキーボイスで気持ちを伝えた。「もうこれ以上望むものは何もありません」という言葉にジーンときた。自分もこんなことを言える人生にしたいと思った。


引退の10カウントゴングは正に男の立ち姿。ゴングが鳴っている間、引退しないでくれという思いよりも本当にありがとうという思いのほうが強かった。最後に一番強い相手を指名し、全てをさらけ出して戦い抜いた天龍、まさにミスター・プロレス。
本当にお疲れ様でした。